常に意識を高く持ち続けることは困難です。だからこそ、普段から無意識で行動できるような習慣にしなければなりません。東日本大震災で得た教訓や学びをもとに、次の災害に備えた活動をする団体はこの3年でいくつも立ち上がりました。「次の災害に備える企画実行委員会」は、まさにそうした取り組みを行う団体の1つでもあります。
避難所から被災者支援拠点へ:震災で得た教訓
「次の災害に備える企画実行委員会」(以下、つぎプロ)は、震災の経験をもとに次の災害に備える活動に取り組んでいる団体で、2012年10月から活動を行っており、2014年3月に活動報告会を開催しました。
活動報告会には、委員会のメンバーによる取り組みと経過報告、港区や三重県の避難訓練実施地域による報告、企業委員会参加企業によるプレゼンテーションとして富士通や凸版印刷、一般社団法人全国ロードサービス協会、日本セイフティー、ソフトバンクモバイルなどの震災に向けて取り組んだ活動が紹介されました。
つぎプロは、大規模災害時に災害関連死や状況悪化を最小限にとどめる「減災」を目的とした活動として、「あるべき避難所」のモデルの確立と普及、さらに避難所を「被災者支援拠点」として機能させるための訓練を行っています。
なぜ、避難所ではなく「被災者支援拠点」なのか。それは、ただ避難するだけではなく、被災者が日常に立ち戻るための支援が必要だということが、今回の震災の経験で得た学びだからです。
東日本大震災では岩手、宮城、福島の3県で最大40万人以上の被災者が、行政の指定した避難所だけではなく、集会所などの公共施設や民家、宿泊施設やショッピングセンターに避難しました。そこでは、ライフラインの未回復や食料や水不足といった問題だけでなく、子どもからお年寄り、体の不自由な人たちなどからの多様なニーズに避難所は応えなければいけません。
大規模災害時には初期の大量避難者への対応だけでなく、長期的な避難者ケアが現場では求められます。時間の経過とともに、避難した人たちの状況も刻一刻と変化していきます。ただ単純に避難するだけでな く、被災した人たちが少しでも早く立ち直り、通常の生活に移行するためのサポートも必要となります。
避難所という「点」で物事を考えるのではなく、地域全体を「面」で捉え、避難所とその周辺のニーズを把握し、住民のニーズに対応しながらサポートを行う拠点となることが大切なのです。
さらに、避難所で命を落とす人も少なくないという現実も、そこにはあります。インフルエンザなどの感染症の問題、被災に伴う精神的な問題へのケア、避難所の中での起きるちょっとしたコミュニケーションのズレや衛生問題などに対するストレスがあります。震災関連死に関する報告によれば、約3割の人たちが「避難所における肉体的・精神的疲労」が原因だという報告がなされました。
そこで、「被災者支援拠点」と言葉の再定義を行い、意識づけを転換して被災者を支援するための取り組みを考えていこうといった趣旨なのです。震災関連死からの脱却を行い、迅速に住民の安心安全を確保し、できるだけ早く日常に戻るための施策を取るために自治体と連携することが求められます。
避難所の役割の拡充などを踏まえて、東京都港区で「被災者支援拠点」運営訓練を実践。その訓練を踏まえてつぎプロは港区長へ「『被災者支援拠点』の整備・運営に向けた8つの提案」を骨子にまとめ、提言を行いました。
提言1:すべての避難施設の現状確認さらに、広域での被災者ニーズを把握し、専門性の高いNPOとの連携を図るための運営訓練を、三重県と連携して行い、事前研修や避難訓練、報告会をもとにこれらの提言をブラッシュアップしました。この提言をもとに、港区などを 中心とした震災関連の対策の形として今後反映されていくことになるでしょう。
提言2:多様な避難者への配慮という視点から、施設・設備の見直し
提言3:地域組織の「備災力」の可視化
提言4:「備災力」向上のための地域円卓会議の開催
提言5:学校・施設も地域ネットワークの一員に
提言6:在宅被災者を支援する体制づくり
提言7:多様な住民が参加する実践的な「被災者支援拠点運営訓練」の実施
提言8:24時間、72時間、1周間の3段階で具体的な想定を
改めて求められるデザインの重要性
参加企業らには、防災計画の見直しや防災訓練の内容、非常時における体制づくりについての説明がなされました。日本セイフティーが開発している自動ラップ式トイレ「ラップポン」の活用事例報告は、画期的な商品だと個人的には感じました。被災現場での活躍はめざましく、簡易的でトイレの衛生面などを考慮した製品であり、ある意味でイノベーションを起こしている1つと言えるでしょう。
しかし、これらの製品もいざという事態を考えた時、災害が起きてから企業が被災地に配置し、その都度使用方法を説明するという手間が発生します。普段の生活に製品が溶け込んでいないがために、便利でもその製品の存在自体を認知する手立てが少なく、いざという時に新しく学習したりツールに適応するための時間や労力をかけなければいけなません。
たしかに便利です。しかし、いざという時の備えだけでは意識が向きにくいのが現状です。企業も、普段のコミュニケーションにおいて非常時のトイレの状況をどのように体験してもらうかを考えるなど、商品だけではない別のコミュニケーションを取る必要があると考えられます。
委員会のメンバーは、こういった製品を企業の努力だけではなく、日常に浸透させ、いざ何かが起きた時にスムーズに震災の現場に配置させるためのアイデアを募る場を作ることが大切かもしれません。
つぎプロの方々が、避難訓練や災害支援拠点としての運営を行おうとする取り組みは私もよく知っていますが、個人的にはどこか日常とは違ったものとして見据えているように感じます。そのため、明日何かがあった時に行動を起こせるかというと、まだまだ難しい状況です。
人間の行動はそう簡単に変えることはできません。だからこそ、さまざまな出来事を自分ごと化するためにデザインの力を必要とするべきなのでは、と私は考えます。
日立は、サービスデザインの発想をもとに、人間工学の観点で震災直後から被災地の方々がどのように動き、どういった意識をもっていたのかを調査し、それらについて対処する取り組みをもとにして教訓と次の災害に向けた取り組みを行っています(詳細はこちら)。
多くの被災者は「被助」、つまり誰かが助けてくれる、誰かがなんとかしてくれるといった意識になりがちです。だからこそ、自分たちでなんとかするための仕組みをつくり、そのために普段からどのような体制づくりをしていくか考え、自治体らと協働して取り組もうと日立は考えているのです。
防災に関しても、既存の非常食や携帯備品のリデザインも必要とされています。非常食の定期購入サービスを運営している「Yamory」は、普段なかなか意識しずらい非常食を定期的に配達してくれるサービスです。
これによって、一度買って放置されることの多い非常食を定期的に見直す機会になります。さらに、更新された非常食を普段の料理に活用するレシピを提案することで、素材を無駄にすることもなく日常の中で非常食を意識することができます。こうした防災を身近に感じる取り組みを実践していくことで、普段から災害に備えるデザインができていきます。
次の災害に備えるためには、より大きな活動体としてスケールさせたり、各地の NPOや自治体との連携を強める取り組みを行わなければいけません。こうした、さまざまな企業や団体の取り組みをきちんと網羅、互いに連携しなが ら日常の中での防災意識の醸成を生み出すための取り組みがますます求められているという時代の流れをきちんと掴み、新しい取り組みを実践していくことが大切です。
防災・減災に取り組むためのフレームワークをもとに多面的に考えてみる
防災については、避難訓練や被災者支援拠点の拡充といった一面だけではなく、多面的な視点で考えなければいけません。そこで、一度フレームワークに落としこんで考えてみてはいかがでしょうか。
まずは、被災前、被災中、被災後といった時間軸のフェーズです。ここに自助、共助、公助といった社会全体での防災や減災に対する軸が加わることで、震災に対して多面的な視点をもとにした対策を考えることができます。これらのフレームワークの中に当てはめた上で、何ができるか、何が足りていないかを具体的なアイデアを導き出すことができます。
震災が起きてから対処しようとしていてはすべてが手遅れになることは否めません。上記のフェーズに応じた取り組みを、人間工学や心理学、防災学などの考えをもとにしたデザインとユーザーファーストの視点から考えていくことが大切です。
フレームワークをもとに震災に関して長期的な視点で研究分析したものとして、阪神・淡路大震災の復興プロセスについて科学的な視点から研究した『復興の教科書』は参考になります。震災に関する基礎知識、被災者視点、行政視点といった3つの視点から、震災から復興までのプロセスにおける変化と取り組みについてまとまっており、これをバイブルに取り組みの充実さを図ってみてはいかがでしょうか。
無理なく普段の生活に防災意識を持ちやすい環境設計を
そうはいっても、防災や震災の備えることは大変で、なぜそれをしなければならないのか、取り組みに対する物語と当事者性をどう作り出すかといった、根本的な意識の転換が求められます。
過去から学び、未来へとつなげるためにも、未来をもっと良くしようと少しでも多くの人たちが意識をもち、行動するためには、そこにストーリー性と人が自然と参加できるデザインを作り上げることが、これからさらに必要とされてきます。
未来を想像し、シミュレーションをもとに人がどう動くか、それに対してどのような対策が必要なのか。常にリスクヘッジを考え、想定外が起きないように常に想定内となる意識をもつための想像力が求められます。
つぎプロの正式名称は「次の災害に備える実行委員会」という名前ですが、次の災害に備える、その「次」とはいったい何をさすのでしょうか。抽象的な目標では、参加している人たちにとっても危機意識や当事者意識はなかなか生まれにくいでしょう。
言葉は時に重要な要素です。「次」の災害という他人ごとではなく、違う名称を付けることが望ましいのではないだろうかと個人的には思ってしまいます。実際、報告会や避難訓練のほとんども、若い人たちは参加しておらず、自治体関係者たちや参加している企業の人たちばかりが中心となっていました。
避難所を被災者支援拠点と言い換え、ただ避難するだけではなく「支援拠点」とすることで、意識の視点が向くように、防災に取り組もうと思えば思うほど難しくなるからこそ、「防災」という言葉を使わずに、普段から意識が向くデザインにするべきかもしれません。言葉で私たちの社会は支配されているからこそ、「言葉のデザイン」から考えなおしてみてはどうでしょう。
つながりや絆、気合や精神力、根性論ではなく、自然と防災意識が醸成される情報環境、そして防災に関連した取り組みに対してのマイルストーンやKPIを設定し、目標に向かって取り組むことが必要です。そうでなければ、どんなに避難訓練を行ったり備蓄品を貯めても、継続性と防災に関する意識が醸成されたという実感がなければ、いつまでたっても取り組みは空虚なままで終わってしまいます。
非日常的な行いは、いざという時に機能しません。防災、避難訓練が大事なことは言うまでもありませんが、それが日常化できていないことが根本的な問題なのです。災害に備えるためには、いかに日常との融和を図る施策を考えるか。小さい子であれば、かっこいい、かわいい、大人であれば防災意識を持つことが大人としての嗜みであるということや教養と結びつけたりすることだって考えられます。
被災前、被災中、被災後という時間軸、自助、共助、公助という各フェーズ毎に 起きる現象を分析し、人間が行動しやすくするためのデザインや、それに向けた取り組みや対策を考え、実践していく。行政や自治体だけでなく、民間企業や個人などのそれぞれのレイヤーの人たちすべての人たちにとって当事者意識を持った取り組みと、無理なく普段の生活に防災意識を持ちやすい環境設計を作っていくことを、改めて考えていかなければ、「次」の災害に向かって行動はできないのです。
(取材協力:日本財団)
(BLOGOSに寄稿した原稿を、加筆修正したものです)
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