2013/05/04

いい作品が「売れる」には何が必要か。出版業界を描いた『重判出来!』から”仕事”について考える

      

「重判出来」、これなんて読むか分かりますか?正解は「ジュウハンシュッタイ」。売れ行きがよくて在庫が少なくなった本の重版(増刷)分が刷り上がって、店頭に並ぶことを意味します。作家や編集者など、出版関係者にとっては何よりうれしい単語の1つですね。

そもそも、重版されるということは、その本を多くの人が手にとって読んでくれて本が売れていくことであり、作家さんにとってみれば、自分の作品が世の中に認められた1つのフィードバックであり、作家と二人三脚で書籍を作った編集部からしたら自分が関わったものが売れて嬉しい。出版社としても、人気の作品を輩出させてことで会社全体が売れ行きがあがるということ。しかし、良い本、面白い本であれば必ず売れるというわけではありません。作家の作品性もそうだし、その作家の面白さを引き出し、どう作品を作っていくかを磨き上げる編集がいて、そしてその本をしっかりと書店に営業し、最終的に売ってくれる書店員さんがいます。

書籍を売る、書籍が売れるためには、そこには多くの人たちが作品に関わっているのです。

そんな、書籍販売の様子を描いたもののマンガが、冒頭にあげた嬉しい単語を漫画タイトルに冠した『重版出来!』なんです。

主人公は、女子柔道で五輪を目指す夢をけがで絶たれた黒沢心。世界共通語である「マンガ」に関わる仕事で「地球上のみんなをワクワクさせたい」と、青年マンガ誌の新米編集者として働く様子を描いた作品だ。

主人公は、新米編集者として、出版業界の様々な様子を見聞きしながら常に懸命な姿で奔走する様子を描いている。そこにあるのは「本が好き」といった一心な気持ちに他ならない。いい作品をもっと多くの人に読んでもらいたい。その純粋な気持ちは、次第にまわりを巻き込んでいく。ジャンプで連載されていた『バクマン』は、どちらかと言うとマンガを作る作家にフォーカスを当てていたが、『重版出来』は、作家や編集者だけでなく、「売る側」の存在である営業や書店さんにもフォーカスを当てています。

もちろんこれはフィクションだが、作品を作るにあたり多くの出版関係者にインタビューをして書かれており、かなりリアリティあるものになっている。そして、ここで描かれているものや、読者に伝えたいものは色々と読み取れものがあると思います。

「作る」だけではものは売れません。作ったものを「売る人」「広める人」がいてこそ、良い作品への次第になっていく。どんなベストセラーも、始めはただの一端の作家にすぎません。けれども、その荒削りな作家の良さを引き出し、その良さがいい形になるために一緒になって考えてくれる編集者がいる。編集者は、間近でいい作品だと分かっているからこそ、その自身の仕事に対する情熱を営業部と懸命になって交渉する。部数決定会議の様子が描かれる回もあるが、編集部と営業部との交渉というのも、企業の中でやり取りする中でおこる1つだろう。

その編集の思いを汲み取り、営業がいい作品であると自信を持って押していく。その営業の動きに呼応して、書店員も力を入れて作品をプッシュする。互いに互いの役割を信頼しているからこそできるチームプレイです。もちろん信頼しているからこそ、時に衝突したりもあるわけだが、それは互いを深く知るために必要なことであり、衝突もなく互いに理解しあえるということなんてない。互いに人間であり、人間同士であるからこそ、完全に互いのことが分かり合えなくても、その努力をし続けることが大事になってきます。

仕事に対してもそうで、仕事を懸命にやっているか、仕事然としてふるまうかで日頃見ている世界や見ている風景の解像度が変わってくる。どれだけその作品を考え、その作品が売れるかを試行錯誤する。そんな互いの地道な努力の積み重ねによって仕事は成り立つし、よい結果が生まれてくるのです。もちろん、時に結果が振るわないこともあるかもしれないが、その時に自身の実力や仕事のレベルの低さに涙し、次に活かそうとまた頑張る。そうした、「仕事」に対する考えを知れる一冊かもしれません。

また、こうした仕事の仕方は出版だけに留まりません。ウェブまわり、スタートアップまわりもそうだし、建築設計やNPO、社会起業やコミュニティデザインと呼ばれるような地域デザインやコミュニティづくりのような仕事にも通じるものが多くあります。

どれだけそのサービスのことを考えているか。どれだけ、そのサービスが良いものかを相手に伝えるために懸命になること。そして、いいと思ったものに対して、編集者やデザイナーはそれに心を打たれてサービスや商品、プロジェクトなどをもっと良いものにするためにブラッシュアップして、そこからデザインを考えたりPRを考えたり、コピーライティングを考えたり。それらを含めた全体として、届けたい相手に対してサービス全体の設計を考えるUXを踏まえるかなのです。

こうした思考は、どんな仕事に対しても言えるものではないでしょうか。

まずは、いいものをつくること。そして、そのいいものを人にしっかりと伝えること。そして、それを買ってもらえるための努力をすること。こうした一連の流れを踏まえながら、それぞれの役割に応じた仕事の人たちが、それぞれのプロフェッショナルな人たちが存在します。

『重版出来!』の中でも、いくつか、印象的なセリフがでてきます。

売れる漫画は愛されています。

どんな作品も、やはりそこに作った人の愛があり、その愛が編集者や営業に伝搬し、関係者が愛しているから良い作品になっていく。そしてその愛がきちんと読者に伝わるからこそ、愛される作品になる。漫画に限らず、ウェブサービスでもなんでもそうだが、様々な関わっている人の愛が行き届く様がユーザーに伝わるからこそであり、それこそ、UXとも呼べるものなのではないだろうか。

今回、始めて知りました。自分の手にする単行本は、たくさんの人たちの手を渡って届いているんだって。「作品」であり、「商品」であり、「想い」なんだって。

まさに、作品は一人では作ることはできず、そこに関わる様々な人の愛が手に手をとって伝わっていく。作品の単純な中身やクオリティもそうだが、その作品のクオリティを上げるためには編集者の愛が必要であり、その編集者の愛が営業を突き動かし、書店員を動かす。そうした想いの伝搬こそが、仕事の醍醐味ではないだろうか。

この第1巻の、3月末にでて早々に「重版出来」されたということで、作家のみならず編集者の想いが形になった結果ですね。Twitterなどでも、色々とコメントもされているようで、まとめもあったりします。作家の力、編集者の想い、そして営業や書店員の活躍。ものづくりの現場を見るたびに、こうした様々な人たちの仕事っぷりと、その情熱に自分も色々なところで感激するしまだまだ自分の未熟さを感じるばかりです。

僕自身も、作った人の想いや考え、哲学を知り、いいものだなと思えば思うほど、どうやったらそれがもっと良い物になるかを一緒になって考えていきたいと常に思っています。その愛があるからこそ、時に厳しいことも言うし、時に一緒になって悩んだりもします。仕事として、自分が関わったりするものであれば、絶対にいいものにするだけの努力や意識を常にもつことは考えています。それが「仕事」であり、それが「愛」だと思っているから。それは大変だけどいつも楽しく仕事をしています。

ぜひ、学生の人や、新入社員の人とかに呼んでほしいものですね。第2巻も9月に発売されるとか。2巻も期待です。ウェブサイトも、特設に作って盛り上がっていますね。

ビックコミックスピリッツ「重版出来!」特設サイト | 試し読み



Post a Comment

Zenback