2013/09/19

ニューヨークのデジタル都市とオープンガバメントからみる、東京の都市と行政のこれからを考える



この週末、日本では台風が日本列島を通過し、交通機関が停止したりと様々な出来事がありました。

台風といえば、ちょうど、2年前の夏に1ヶ月ほどニューヨーク(以下、NY)に滞在していた時に、東海岸では26年ぶりのハリケーン上陸に遭遇しました。日本では台風はある程度馴染みはあるが、NYは普段はハリケーンに遭遇することはあまりなく、またNYへのハリケーン直撃はほぼ初ともいっていい状態で、大型のハリケーン上陸に対して、被害や避難に対しての準備や対応がどうなるか見当が付かない様子でした。

NYのブルームバーグ市長は、上陸する数日前から浸水や洪水などの危険性のある地域で37万人に避難命令をだし、地下鉄とバス、フェリーなどは上陸前日には運休し、空港も閉鎖されるなど、事前の迅速な対応を行っていました。


ハリケーンの対応に、ソーシャルメディアやデジタルが活用

また、そうした行政の迅速な対応の中で、NY独自の動きも注目されました。避難命令の情報やハリケーンの状況を知る方法が、従来だと新聞やテレビの報道といったマスメディアに依存しており、情報のタイムラグがどうしても起きていました。しかし、自然災害はリアルタイムや速報性が問われるものです。そこで、NYは2010年から取り組んでいる市のデジタル化の一環として、市の情報のソーシャル対応やデジタル化に向けて、デジタルを活用した情報発信を行ない、ハリケーンの対策に取り組みました。

ハリケーンの現在地を把握するため、アメリカ国立気象局が集めているハリケーンのリアルタイムの位置情報をマッピングしたデータを公開。そのデータをもとにNYタイムズなどがHurricane Trackerをリリースし、現在地を用意に把握する情報を発信していました。また、NY市が発した避難命令に沿った避難地域エリアを示したマップを公開。同時に、避難場所の位置情報をオープンデータ化し、それらを誰でも自由に利用できる情報環境を作り、エンジニアがその地図情報をマッシュアップして様々な地図アプリやサービスが開発されました。

もちろん、ブルームバーグ市長の数時間おきに行なわれる記者会見もすべて生中継、もしくは録画アーカイブを行ない、市のウェブサイトや公式Twitterなどですぐに発信。また市内の様子などを公式Twitterで被害状況を発信し、その情報をもとに警察や消防とも連絡をとり救助に駆けつけるといったことを行っていました。

結果的に、ハリケーンによる被害は小さく、事前の準備が功を奏したのではないかと考えられます。同時に、現地でこれらの対応を体験し色々と学ぶものが多く、今の日本にも参考になるのではと考えました。


NYのデジタルを統括するCDOという役職

こうしたNYの迅速な対応に関して、ある役職の人物が大きく貢献しました。2011年1月に初代Chief Digital Officer(CDO)に就任した、Rachel Haot氏です。1983年生まれでほぼ筆者とも同世代の人物で、就任当時は27歳の若手をブルームバーグ市長はデジタル統括に起用し、市の情報のソーシャル化やデジタコミュニケーションに向けての取り組みの舵取りを行ないました。Rachel Haot氏はニューヨーク大学ジャーナリズム学科を卒業後、市民ジャーナリズムによるソーシャルニュースサイト「GroundReport」を設立。インターネットを活用した情報発信にまさに適任の人物であり、女性で若手を新しい部署の統括に就任したというニュースは、大きな話題を呼びました。もちろん、ハリケーンの際のデジタルを活用した情報発信は、彼女が大きく貢献しており、その様子をTwitterやウェブサイトなどで知り、その存在を知ることが出来ました。

NY市は2010年から世界のデジタル都市を牽引するべく、「NYC Digital - Digital Road Map」を作成し、新しいデジタル都市計画を進めています。インターネットが一般化され、デジタルを活用することが政治行政でも求められてる現代において、都市生活やイノベーションに対応していくためには、行政だけでなくこれまで以上の市民参加を促し、市民と協働しながら推進していかなればいけません。そこで、すべての行政・公共サービスをデジタル化し、またソーシャルメディアを通じたデジタルプラットフォームを提供し、オープン・イノベーションを通じた都市を目指す政策を実行しているのです。

これに伴い、政治行政が持つ様々な公共データをオープンデータ化し、市民の参加を促し第三者と協力しながら公共サービスのあり方を刷新していくオープンガバメントを進めているのです。オープンガバメントとは、政府行政が持つデータを公開するだけではなく、公開されたデータを第三者に自由に利用させ、外部からの発信やコンテンツを取り入れ、新しい舵取りを行う意思決定を行うことです。誰でも自由にコンテンツを作る自由を持たせ、その中からより公共サービスとして相応しいものは公式に採用し、サービスの質の向上を図っていく。そのための大きな方向性と意思決定をガバメントが持ち、プラットフォーム化された場において誰もが互いにコンテンツを作ることで、迅速かつ新しい価値提供ができる環境を作ることなのです。

そのため、オープンガバメントにはオープンイノベーションを促進し、また参加性を持たせるための仕掛け、いわゆるゲーミフィケーション的要素を作っていくことが求められるのです。ここで言うゲーミフィケーションとは、誰もがプレイヤーとして参加し、当事者意識を持ち問題解決や課題に取り組むことであり、いわば社会を自分ごと化し、参加意識を持つことを指しています。


ハッカソンや次世代IT養成など、街全体でデジタルへの取り組みを図ってる

市民の参加性を促すため、CDOのRachel氏は市主催のハッカソンを開催し、国内各地のスタートアップや開発者、デザイナーが参加する場を設けています。市の各種公共データを公開するだけではなく、そのデータを活用するアイデアをみんなで発案し、さらにプロトタイプを作る場を積極的に作っているのです。また、市主催のアプリコンテスト「NYC BigApps」やNY都市交通局が主催するサービス向上やコスト削減に役立つアプリコンテスト「MTA App Quest」など各事業部によるコンテストを行ない、データを活用したハッカソンやアプリなどのサービスを奨励・表彰し、そこから新しいスタートアップを生み出すエコシステムを作り出しているのです。

また、「NYC Generation Tech」という高校生を対象にしたサマーキャンプを地元の民間NPOが実施。夏休みを通じてアントレプレナーシップなどの講義を行ない、NYにいるスタートアップやIT企業のスタッフがメンターとして関わり、後進の育成を図るプログラムに行政も全面的にバックアップしています。また、女性のエンジニア支援のため、女子高生のためのIT起業家育成プログラム「Girls Who Code」といった活動も生まれるなど、NY全体が民間と行政が連携して次世代向けのIT起業家養成プログラムも実施しているのです。

デジタル化、IT起業支援を促進する動きとして、コーネル大学にルーズベルト島の市の所有地を提供し、コーネル大と共同してテクノロジーキャンパスの建設「APPLIED SCIENCES NYC」を進めています。つまり、ニューヨークを、シリコンバレーに匹敵する新たなテックシティにするための取り組みなのです。すでに、サンフランシスコのシリコンバレーではなく、NYを拠点にFoursquareやTumblr、BuzzFeedなどのITスタートアップが多く生まれており、西海岸とは違ったテックトレンドを生み出しています。

次世代に向けた育成も含めて、NYではテックシーン全体を盛り上げようと、NY各地にあるテック企業の紹介人材確保支援、人材育成や起業家支援を行う「We are Made in NY」という取り組みも今年の初めにスタートしました。行政と民間がコラボし、民間の創業支援や企業誘致を行ない、街全体の新たな産業振興やブランド作りに力を入れているのです。

Why We Are Made In NY from WeAreMadeInNY on Vimeo.


これからの都市を考えるロードマップ

こうした取り組みなど、デジタルロードマップに記載しているAccess(公衆Wi-Fiなどのネット環境の整備など)、Education(デジタル化を軸にした次世代育成など)、Open Government(政府情報の公開と積極的な官民連携による政府のプラットフォーム化)、Engagement(ハッカソンやアプリコンテストなど、市民活動を奨励させる動きなど)、Industory(産業振興や商業施設、街のブランド化など)、Next Step(中長期的な計画と、計画のアップデート)といった項目を軸に様々な施策を行ない、2013年にはさらなるロードマップのアップデートを図るなど次の展開を見せようとしています。こうした、NYの取り組みから見て取れるキーワードは、「女性」「若者」「オープン」「デジタル」「ローカル」「コミュニティ」といった要素だと感じます。就任当時、27歳という若者の、しかも女性であるRachel氏をCDOに起用したブルームバーグ氏の手腕、そしてその期待に応えるRachel氏の目を見張る活動は、まさにNYのこれからを示すい動きだと思います。こうした、新しい都市の文脈作りのために民間や若手を起用し、また行政と市民、企業が協働して新しい動きを起こしています。

日々のNYCのデジタル化の取り組みに関しては、NYC Digitalのブログで見ることができます。情報公開による「透明性」、オープンプラットフォームによる民間や市民との「協働」、そして街や都市への当事者意識を持ち、自分たちでコミュニティを作ろうとする「参加性」といった、アメリカのオバマ大統領が2009年に就任した時に掲げた「オープンガバメントの基本原則」と通じるものがあります。


求められる東京の未来のために

東京も、2020年のオリンピックが決定し、この7年をかけて世界に誇る都市として存在をアピールすることが求められています。そうしたこれからの7年、そして10年後20年後を見据えた時に、インターネットやデジタルの存在は、ますます欠かせないものとなっています。同時に、政治行政と民間とが協働し、東京全体、そして新たなロールモデルを築くことで日本全体に対しての未来の形を示すことが求められています。

そのためには、市民とともに協働し、新しいまちづくりを目指していくこと。そのための施策して、東京のデジタル化、そしてオープンデータやオープンガバメントといった、市民協働型の社会を作るための中長期的な計画を実行することが必要なのです。東京として、CDOを設置するということもありえます。しかも、そこには民間出で、さらに若い人を起用するような、これからの東京としてのあり方を示す人材を登用することです。ぜひ、そうした動きが東京都が起こしてくれることを期待しています。


【お知らせ】10月31日に、オープンガバメントに関するカンファレンスを開催します

また、こうしたオープンガバメントの動きは、次第に日本でも起きつつあります。私も活動に参加している、行政と市民をつなぎ、エンジニアを通じて政治行政のIT化やイノベーションを図ろうと取り組んでいるCode for Japanが、本格的に始動しつつあります。9月発売の雑誌『WIRED』でも、オープンガバメント特集として、Code for Americaが特集され、私もCode for Japanの動きについて記事を書かせていただきました。

さらに、これに加えて10月31日には、WIRED CONFERENCE2013が開催されます。WIREDで特集として掲載された初代ホワイトハウスCIOのヴィヴェック・クンドラ氏やCode for America インターナショナルプログラムディレクターのキャサリン・ブレイシー氏などが登壇し、講演やパネルディスカッションを行ないます。Code for Japanのメンバーなども登壇し、世界のオープンガバメントの実状、そして日本での現状とこれからどのように取り組んでいくか、といったことが話されます。ぜひ、興味がある人はご参加ください。

CONFERENCEの詳細や参加申し込みはWIRED CONFERENCE 2013 OPEN GOVERNMENT 未来の政府を考える から。


*この記事は、ハフィントン・ポスト日本版に掲載した筆者ブログ記事「ニューヨークのデジタル都市計画に見る、東京のまちづくりの未来」を、加筆修正したものです。
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