Creative labは、来場者参加型の企画で、テーマに合わせたアイディアを作り出す、いわばアイディアソンみたいなもの。参加者は「公共空間を楽しくするデザイン」「世界の問題を身近に感じるデザイン」「新しい学びのカタチ」というテーマに沿ってグループ分けを行ない、各グループ毎に最終的に5分間のプレゼンを行う、というものでした。
ゲストで茂木健一郎さんや猪子寿之さん、前田紘典さん、僕という並びなのですが、茂木さんと猪子さんはMITのセッションが終わってからの参加なので、後半のプレゼンのみの参加で、僕と前田さんはセッションの通しで参加していました。
各グループ毎にファシリテーターがおり、ゲストは最後の講評時にコメントをする、というものだったのですが、せっかくなのでグループワークの間ずっと各テーブルをまわりながら、それぞれのグループに対してコメントしたり質問をしてみたりしながら過ごしていました。ちなみに、イベント自体は2日間の開催で、一日毎に参加者、司会、ファシリテーターは1日目と2日目で入れ替えだったのですが、ゲストだけは通しの参加だったので3テーマ4グループの12グループが2日間、合計24グループに対してコメントなどをする、というなかなかハードな参加となりました。
各グループともに、初めて顔を合わす人たち同士が、時間をかけてアイディアを練る場だったのですが、やはり面白いアイディアとそうでないアイディアに別れるもので、2日間で多くのグループの内容を聞いて感じたことを踏まえつつ、アイデアを出す場で重要な要素についてまとめてみたいと思います。
・思ったことを、まずは言ってみる
当たり前かもしれませんが、会話を続けることがこうした場では大切です。また、「相手の発言を否定しない」にもつながりますが、自分がなんとなく当たり前だと思っていることやふと口にしたことから議論が発展したり思いがけないヒントがでてくるかもしれません。アイデアを出す場は、なんでもいいから思ったことを言っている、まずはそこからです。
・メモ代わりに目の前の模造紙やふせんに書いてみる
こうしたワークショップでは、模造紙やふせんを使ってワークすることが多いのですが、普段ワークショップに慣れていない人からしたらふせんや模造紙の使い方がいまいちよく分からないのも事実です。もちろん、使い方などは最初に指示されたりするのですが、書いていいよと言われても初めての人はなかなか手が動きにくかったりします。場によって多少変わるかもしれませんが、思ったことを言ってみると同じくらい、思ったこと発言したことをメモに残すというのは重要なことです。そうしないと、議論が発展した時に前の発言を振り返ったり、ふせんに各人のアイデアを書き込んだものを、あとで再整理したりすることができなくなるかもしれません。
口を動かすと同時に手を動かし、発言したこと思ったこと、思考の断片をふせんやメモに書いていくこと。そして、最も重要なものは書いたものをみんなにもシェアすることです。そうすることで、議論が発展しやすくなります。
・相手の発言を否定しない
アイデアを出す場は、いわば思考実験の場です。そこでは、正しいとか正しくないといったことはありません。とことんアイデアを出し、そして、誰かが発言した内容が自分と似てることから自分の話が発展したり、相手の発言をうけて閃いたアイデアがでてくるかもしれません。そのためには、相手の発言を否定するのではなく「なるほど、そういう考えもあるな」とまずは受け止めることが大事です。
・相手の話に乗っかってみる
議論を発展させるためには、相手を否定しないだけではなく、相手の話に乗っかってみることも大いにありです。「それのアイデアだったら、もっとこうすると良くなるかも」「それがありなら、こっちもありじゃね?」などなど、話を広げていくことでアイデアが思いがけない方向におき、予想しなかった形になるかもしれません。どんな意見もありだと思い、発展させるよう心がけることが、こうした場では大切だったりします。
・そもそも論(WHY)を考えてみる
ファシリテーターにも必要かもしれませんが、議論の中で「これが問題だ、ボトルネックだ」といった内容が出た時、その問題が生まれた原因を考えたり、なぜそれが発生するのか、無意識的に行動していることみんなが常識だと思っているものを疑う意識、つまりWHYを考えることから、本質的な課題が見えてくることがあるかもしれません。場合によっては、そのボトルネックを解消することが、素晴らしいイノベーションや新しいアイデアの種になりうるのだから。
・現実論はしない
WHYを考えるときにも通じますが、現実論が議論の時にネックになることがしばしばあります。アイデアを出したはいいが、そのアイデアが本当に意味があるかどうかという話の中で、法律の問題や現実の仕組みの話をしがちな人がいます。もちろん、ビジネスモデルとして考える時はそれは必要な要素ですが、この短い時間で法律について議論する暇はないので、ここでは現実論は極力しないほうがよいと思います。アイデアを生み出すことが求められている場なので、思考実験だと思って色んな枠やしがらみを取っ払った発想を持って話をしてみましょう。
・その場をできるだけ楽しむ
いろんなことを言いましたが、一番大事なものはこれです。仕事でもない場ですし、数時間をお初な人たちと一緒に場を共有し、最後にアウトプットしなければいけない場だからこそ、その場をめいいっぱい楽しみ、色んな刺激や発想を見出す場だと思うことが一番です。その場にいることが楽しく感じられないのならば、せっかくのいいアイデアも出てきません。「それもありだね!じゃあこれはどう?」みたいな感じで、アイデアのキャッチボールをする楽しみを見出すことが、なによりも大切な意識なのではないでしょうか。
正しいことは正しくない、という意識を持つこと
こんなところでしょうか。もちろん、最終的にプレゼンされたアイデアを実現しようと思うのならば、ターゲットを精査したり、マネタイズを考えたり予算や技術論の話をしなければいけませんが、それは次のフェーズ。日ごろ自分が思っている不満や不思議だと思っていること、これってもう少しこうしたら良くなるのでは、といった普段の感覚を解放する場だと考え、思考を柔軟にする実験の場として捉えましょう。
Creative labの動画の中で、茂木健一郎さんが「いい人にはイノベーションは起こせない」といった言葉や、MIT副所長の石井裕さんの「正しいことは間違ってる。イレギュラーなものの発想で、考えること」といったことは、イノベーションは新しいものを生み出す源泉として、現実を否定してみるといった思考実験や、正しいということはすでに認められている、もしくはある程度予想できるようなものであるという考えをもち、現実にないものを考えてみることから、次の時代のヒントが生まれてくるのではないでしょうか。
そうした意味では、今回のCreative Labo参加者のアイディアを出すことの意識や思考実験の場に対する差が見られたのではと思います。例えば、満員電車を解消することを考えるときに、「満員電車をいかに楽しく」と考えるか、「そもそもとして、満員電車がなぜ発生するのか」といったことを考えるだけで、思考のベクトルは変わってきます。議論の途中で、僕があえて「公共空間って、そもそもなんなんだろうね?公共の反対を考えてみよう」と投げかけたことで、議論に幅ができたグループもありました。(そのチームは、最終的に喫煙スペースに関してのアイデアを発表しました)
時間も、13時スタートでオリエンが始まり、14時から19時終わりと、約4時間近い議論の時間がありました。なので、最初のメンバーとの議論として、思いっきり突拍子もないことを言いながら、そこからじょじょにブラッシュアップしていって、最後のプレゼンで形に持っていく、という時間配分も意識することだと思います。
参加者の発言を促すためにも、ファシリテーターはうまく相槌なり発言者の言葉に対して「それってどういうこと?」「そう思ったきっかけは?」など、うまく発言した人の内容を飛躍させたりすることで、議論や思考の幅を広げることができると思います。そうした意味でも、ファシリテーターの役割も大きく占めています。今回のCreative Labでは、ファシリテーターに対しての事前の共有や意識のすりあわせをする時間があまりなかったように思えたので、そこがもう少し事前にやりとりができたら、もっと良いものになったのではと思います。
アウトプットではなく、過程にこそ意味がある
少し話が逸れるかもしれませんが、ニューヨーク大学教授のクレイ・シャーキー氏が、あるキーノートプレゼンでこんな発言をしました。
”Hackathon doesn't make output.〜Social capital develop.〜Understanding problems”ハッカソンは、ハックとマラソンを合わせた言葉で、あるアイデアやテーマに関してのプロトタイプ作りや共同作業を行うイベント。最低でも1日から数日かけて行われるイベントで、時に実際にプログラミングをする前に、アイデアソンのようにアイデアを話し合い、ソリューションを導き出すための時間があったりします。
「ハッカソンは、アウトプットを生み出す場じゃない。参加したメンバーとの関係性を深め、そこで提示された問題を深く理解することだ」
そんなハッカソンに対してクレイ・シャーキー氏が語っている内容は、今回のCreative Labにも通じるものがあります。つまり、その場で話されたことや最終的にプレゼンをしたアイデアそのものではなく、ある一定期間メンバーと思考をフル回転させながら議論し、アイデアを生み出してブラッシュアップしていくその過程にこそ意味があるのです。正直な話、実際に形になるだけの斬新なアイディアが、会って数時間で議論したメンバー同士では生まれにくいことがほとんどかもしれません。猪子さんが、動画で「社員と常に会話したり議論しながら、アイディアに対して研ぎしましていく。同じ人と長時間議論することで、行間が生まれ、新しい方法を見出すことがある」といったことを話しているように、ある程度気心がしている人同士で、本音で言い合ったりふとしたことがきっかけでソリューションを見出すこともあります。
グループで議論したことがきっかけで、メンバー同士が出会って数時間後には互いにある程度の本音で議論する関係性が築けることで、その後に一緒に会社を作ったり、何か別のプロジェクトを作る時のメンバーになったりすることがあるかもしれません。StartupWeekendのような場では、そこで出会った人たちと、プレゼンした内容を本当に事業化しようとイベントが終わったあとも議論し、さらなるブラッシュアップをして起業する人たちもいるほどです。
テーマとして設定されている問題に対して真剣に取り組むことで、問題をさらに深く理解することができます。今回であれば、「公共空間って?」「学びってなんだろう?」「世界との関係ってどうなるんだろう?」といった問題に対して考えるきっかけになったと思います。こうした場を通じてさまざまな問題をより身近な意識となることで、普段の生活においても何かのきっかけでふと考えてみたり、より深い考察ができるようになるかもしれません。イベントに参加して、最後にプレゼンして終わりではなく、こうしたワークショップの場を通じて経験したプロセスにこそ意味があり、そして何か次につながるものを見出すことが最も大切なことなのです。
思考実験をする場の重要性は、増してくる
閉塞感や新しいものを生み出すことが求められている今の時代、こうした思考実験をして議論する場の重要性は増してきているように思えます。今回Tokyo Designers Week内で参加型のイベントとして開催されたCreative Laboは、誰もが参加し、日ごろ思っている考えをシェアしたりするところから新しいデザインの種が生まれてくるきっかけを作ることを目的にしたという意味では、これも一つのデザインの実験の場だったかなと思います。来年は、もっと盛り上がっていけるようなものなればいいなと思うと同時に、また何かしらお手伝いしたいですね。
ワークショップという場やファシリテーターという役割の重要性自体も、考えをシェアしたりアイデアをだす場が増えてきていると同時に求められているのではないでしょうか。参加者の意見を吸い上げ、議論を発展させたりそれまでになかった形を生み出すサポートをするファシリテーターという存在も含めて、思考実験の場というものの場の重要性も含めて、今後考えていかなければいけないものではないでしょうか。
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