2013/06/12

ソーシャルテレビ推進会議に見るテレビの現況と今後

先日おこなわれた、ソーシャルテレビ推進会議一周年オープンセミナー「ビジネスモデルは見えてきたか?」に参加してきました。

ソーシャルテレビ推進会議とは、ソーシャルテレビに関する最新データやニュースを発信するサイト「ソーシャルテレビラボ」が主催するイベントで、放送と通信、マスメディアとインターネットの融合の形として、テレビの次のあり方を模索するためのイベントです。

ソーシャルテレビ推進会議は、毎月有志で集まり情報交換やテレビ関係者たちのコミュニティを作っています。今回で立ち上げから1年を経たということで、オープンセミナーとして100人以上もの人たちがテレビとITの融合について考える場となりました。これまでにいくつもテーマで話されてきた中、テレビとインターネットとの関係が少しづつ見えてきたと語る主催の境治さん。実際、テレビの番組内でも参加者とスマホなどを用いてインタラクティブな参加性を持った企画も立ち上がってきました。そうした知見やノウハウをシェアし、業界内への提言などを試みているそうです。


テレビがAPIを公開し、オープンプラットフォームへの道のりを作りつつある
まずは、セミナーの第一部として「テレビはウェブで飛躍するか」と題し、モデレーターにVOYAGE GROUP中山理香さん、ゲストにNHKの石倉清史さん、日本テレビの安藤聖泰さんが登壇し、それぞれの局が取り組んでいる事例を発表しました。



NHKの石倉さんからは、番組情報への導線がテレビ欄からEPG(テレビ・レコーダー)などへと移ってきてるというお話がありました。SNSやブログへの認知など、これまでの新聞のテレビ欄以外での流入経路が増えてきました。そこで、NHKとしてEPGにおける情報発信をこれまでおこなってきましたが、EPGでは写真やURLなどが発信できないことなど、今の時代の現状に合っていない、スマホオリエンテッドではないという考えが局内からも出てきたそうです。

そこで、つい先ほど(ちょうどイベントの数時間前に!)、NHKの番組情報のAPIを公開した、という発表をおこないました。(NHK番組表APIはこちら

たまたま、イベントとタイミングが合ったそうで、来てる参加者からも大きな声が上がりました。最大48時間先までの全国の総合テレビやEテレ、BS1などの情報を発信するとのこと。もちろん利用は無償で、目的としては少しでもテレビを見てくれる人が増えれば、というお考えでした。今後は、他局と連携を図りながら改善を図っていくそうです。もちろん、今回は無償での利用ですが、その公開範囲は必ずしもすべてとはいえません。どこまでを提供範囲とするかは局内でも現在検討中であり、より広範囲な情報は有償となる可能性もあります。

NHKとしても、まだまだ番組情報に関しての改善は検討しており、番組のLPやテレビのプレイヤー同士のコミュニティを形成したり、各局共通のプラットフォームを作ったり、API利用の動向やユーザ調査などの案も浮上しているとのこと。番組情報というメタデータを、テレビ局が試行錯誤しながら徐々に公開していく1つの試みとして、今回のAPI公開は評価できる取り組みと言えます。

日本テレビの安藤さんも、テレビ局としてのオープンデータを推進することを意義についてお話いただきました。実は、日テレは出演者情報などをWebAPIとして6年前くらいから公開していたそうです。(日本テレビのWebAPIはこちら)目的も、番組のファンなどに向けて、より充実した情報を公開していくための対応だったと言います。

今後は、NHKがAPIを公開しているように、より詳細な番組情報のAPIを公開するなど、色々な情報を発信し、それらを第三者が利用し、番組への認知や発見されやすさ(Discoverability)を高めていきたいとのこと。さらには、番組をもっとソーシャルに連動したり、セカンドスクリーンの企画をテレビ局は打ち出していくべきでは、と語りました。

石倉さんや安藤さんの話の中でもあったように、各テレビ局がそれぞれに独自に動いていくのではなく、テレビ局全体としての統制を図り、局同士が連携し、テレビという場全体がプラットフォーム化することの可能性を大いに感じました。APIの公開をどこまでおこなうか、フォーマットを統一し、どこまでの情報を無償で公開し、どこまでを有償で公開していくか。テレビ局側としても、まだ試行錯誤の段階ですが、一歩づつ進んでいる流れがあるように思いました。

結局は、そのAPIを利用する私たちや開発者、企業などがどこまでの情報を欲しいとするかを、テレビ局側の人たちと一緒に考えていくべきなのではないでしょうか。それによって、テレビ局だけが頑張るのではなく、それを使う私たちと一緒になって考え、よりよいものにしていこうという流れが起きることで、テレビがウェブで飛躍する可能性は大いにあるのではないでしょうか。

一番印象深かった言葉は、「テレビはもはやテレビだけがプレイヤーではない」という言葉。これまでテレビ局主導でおこなわれてきたことを、権限をユーザに一部移譲し、一緒になってテレビを通じた良い体験を作っていこう、という姿勢の表れだと感じました。

利用者の利用シーンを踏まえたテレビそのもののあり方を考える
第二部では「テレビ視聴のこれから」として、モデレーターにビデオリサーチインタラクティブ深田航志さん、ゲストに角川アスキー総研の遠藤諭さん、LG Electronics Japanの土屋和洋さんが登壇しました。

まず初めに、遠藤さんも監修に加わった「次世代テレビに関する検討会」報告書を深田さんが紹介。そこで紹介されている統計データをもとに、議論がなされました。



データを踏まえつつ、テレビという機器そのものをどうしていくかについて、まず初めに、LGのスマートテレビについて土屋さんのお話が続きます。LGのスマートテレビは、リラックス・メガコンテンツ・サイズアップをテーマに掲げ、機能としてジャイロセンサリモコンや音声認識、カメラでのジェスチャー認識など、ただの受信機としてのテレビではなく、よりインタラクティブ性をもったデバイスとして、そしてリモコンレスなものへと移行していく、というお話がなされました。

「次世代テレビに関する検討会」報告書の中でも、今後はスマートテレビが主流になっていくのでは、という記述がされています。その中で、現在の地デジ対応テレビのネット接続率は20%程度に対し、LGのスマートテレビ購入者による調査では45%という数字が示されており、スマートテレビによるネット接続率の向上についての話もあり、よりインターネットを通じて情報のやり取りや多様なコミュニケーション手段のツールとして、テレビが変化していくと予想。

地デジ移行期に購入したテレビの買い替えサイクルがちょうど2020年頃だと言われている中、2020年に向けた大きな買い替えのタイミングに向けて、各社がスマートテレビを主戦とした機器の開発などが問われているのかもしれません。また、今一番売れているテレビも、2台目3台目利用が多く、大型テレビの需要は減ってきているのではないか、次に来るスマートテレビの機能としてWi-FiやIPTV、ユニバーサルリモコンなど、よりUIを踏まえた要素が重要だという議論が続きました。

「テレビ」において今後考えなくてはいけないポイントは何か。それは、どういったユーザが、どういった視聴体験をしているかを考えることではないか、と話は移ります。若い人に多いタブレットなどの視聴では、大音量のスピーカーでの視聴よりもヘッドホンでの視聴も多いそうです。スモールスクリーンとビッグスクリーンでは、必要な機器や番組企画にも大きく関わってきます。よりパーソナル視聴が加速していく中、大画面のテレビの必要性がどれだけあるのか。あるとしたら、そのニーズは何か?を考えることが求められてきます。

メインテレビで考えれば、今市場に出まわりつつある4Kや、次に出てくる8Kといったテレビがどれだけニーズがあるのか。もちろん、テレビ機器メーカーからしたら、より大画面でより大音量でテレビを楽しんでもらいたい、という発想も理解できます。大事なのは、ユーザに対してどういったUXを届けるか、そのために必要なテレビ機器のあり方を考えることなのかもしれません。

モバイルメインで視聴する人と、リビングなどの場所で視聴する人など、ターゲットによって番組への作り込みが変わってくるのかもしれません。番組制作者は、そうした、ターゲットとなるユーザの環境まで踏まえながら、コンテンツを設計しなくてはいけないのかもしれません。

最後に、全録機のガラポンTVが先日出したリリースによると、ガラポンを導入したことによって、有料チャンネルやCSを辞めて、ガラポンを通じてテレビ番組を視聴する人が大幅に増えた、という発表がなされました。(リリースはこちら)つまり、テレビ自体がつまらなくなったのではなく、テレビを見る機会の多様化と、それを受け止めるチャネルが少なかったからテレビ視聴が減ってきただけであり、ガラポンTVのようにいつでもどこでも視聴できる環境が構築されれば、おのずと視聴者は増えていくかもしれない、ということを証明したことになります。この数字をうけて、テレビ制作者がどう番組構成を考えるか。ここからが大事な時期なのかもしれません。


テレビ制作者とファンとのコミュニティを作る
最後に、第三部として「テレビづくりの未来をつくる」というテーマで、モデレーターにコピーライター・メディアストラテジストの境治さん、ゲストに読売テレビで「ダウンタウンDX」などのプロデューサーの西田二郎さん、北海道テレビで「水曜どうでしょう」のディレクター藤村忠寿さんが登壇しました。




お二人は、テレビ埼玉で放送されている「たまたま」にて共演。この番組自体が、これまでにない新しい番組制作への挑戦だとお二人は語りました。そもそもとして、読売テレビと北海道テレビという局の違う二人が一緒になって番組制作をやる、という事自体が新しい試み。一般的に、番組制作者は自局系列でしか番組は作れません。そこで、中立な局として存在するテレビ埼玉で、今回共演が実現できているのです。

また、「たまたま」はそのほとんどが自主制作に近い番組制作です。番組予算はゼロ。日々スタッフやスポンサーを募集しており、テロップの1つ1つをお二人で制作しています。

番組も、30分ひたすら二人がしゃべり、また編集もほとんどせず、30分流しっぱなしという状態です。これまで、テレビは編集の妙でそのクオリティを作り上げてきました。しかし、その編集によって本当に面白いもの、番組の現場の生感を伝えることが抜けてきたのでは、という思いがあるとお二人は語ります。クオリティという外見ばかりにこだわった番組制作になってきている、今のテレビ制作に対して、1つの挑戦としてこうした番組を作っていきたい、という思いで番組に携わっています。

逆に、ニコ動などに代表されるような番組は、テレビの方からしたらクオリティはとても低いと言わざるをえないかもしれません。時に、放送事故とも言えるような失敗があるかもしれません。しかしクオリティは低くても、そうしたものも含めて見ている人と一緒になって面白いものを作っていこう、という空気感が、特にネット上にはあります。そうした空気感を、これからの時代のテレビマンに求められているのではないでしょうか。

西田さん藤村さんは、「面白くしようと思わなくていい」と語ります。これまで60年かけてテレビが築き上げてきたルールも、もとは何もないところからこれまでのテレビ局の人たちの試行錯誤によってできたルールでした。しかし、現在テレビに携わっている人たちは、そのルールが絶対だと感じたり、ルールが当たり前でありそれを踏襲することを第一に考えがちだと語ります。そこで、いったんすべてを分解し、そこから本当にやるべきことは何かという優先順位をつけていくことが見ている視聴者にとって一番大事なことであり、そして今のテレビに求められているのではないか、とお二人は今のテレビ業界に対して投げかけをしています。予算の取り方、番組の制作の仕方、演出のあり方、1クールという番組の枠など、そうしたすべてを一度改めてみること。そこから本当に面白いと思うものを作るための優先順位を作り上げることが大事なのです。

インターネットのサービスであろうがテレビであろうが、1メディアである限り、そこにおける課金の仕組みは、そのメディアを使うユーザにとって気持ちのよい課金の仕組みを作らないと、スポンサーも制作者もそれぞれの心意気が達成できません。

「テレビの広告は悪」だ、と語る風潮も一部ありますが、本来はスポンサーをしている企業からの支援があって番組は成り立っています。広告がついているといった前提、お金はあって当たり前、という発想を、現場の番組制作者が持っている、その思いあがりが、今のテレビが改善すべき意識なのではないでしょうか。

「たまたま」の例にあるように、番組制作者自身が、真の意味で番組制作とは、といったものを考え、そこから予算やコンテンツを考え、そして、それを支援するスポンサーに制作者は感謝をし、そして、見ている視聴者も広告主にいい番組を作ってくれた、というその心意気に感謝をする。テレビに限らず、本来であればそうした制作者とスポンサーの心意気に対して、見ている視聴者は応えるべきだったのではないでしょうか。制作者自身も、惰性で作るのではなく、本気で作りたいと思うものを作り、その思いにスポンサーは応え、その思いに共感するユーザが課金をする。そうした当たり前な仕組みを、テレビは取り戻そうとしているのかもしれません。

そのためにも、作り手である制作者とユーザである視聴者が同じフィールドに立ち、一緒になって作り上げていくという感覚を持つにはどうしていけば良いか。お二人とも、テレビの番組制作もコミュニティを運営するような形に移行していくのでは、という話が印象的でした。ユーザとコンテンツ提供者の形が変わってきており、予定調和な決まりきったことにユーザは満足していないからこそ、ユーザが参加できる余地を作り、共に作り上げる仕組みをテレビが持った時、新しいテレビのあり方があるのではないだろうか、という提案で話は終わりました。

局という立場、一番組の制作者という顔が見えることにより、よりユーザとテレビとの距離感が近くなり、双方向のコミュニケーションを通じてともにコンテンツを作り上げる。こうした動きは、これまでのテレビのあり方を一新する流れかもしれません。もはや、テレビはテレビというメディアを通じ、ユーザと対話していくプラットフォームを作っていく担い手、という位置づけになっていくのかもしれません。

テレビもネットも同じフィールドにいる競合であり協働パートナー
第一部から第三部まで通底しているのは、もはやこれまで私たちが考えていた”テレビ”という姿はじょじょに変わりつつあり、テレビというメディアを通じ、ユーザである視聴者とどのように番組を作っていくを共に考えるプラットフォームの一部へと移行してきています。そうした時に、これまでテレビというメディアが持っていたコンテンツ制作力やノウハウは、良質なコンテンツ作りやネットワークを駆使し、これまでにない新しい何かを作るだけのリソースを持った、新しいコンテンツ提供者へと変わっていくのかもしれません。

ユーザからしたら、ニコ動であろうがテレビのコンテンツであろうが、最終的には面白いものがあるところに集まる、ということには変わりありません。そして、その面白いものを見るためのツールが、マルチデバイス、マルチチャンネル、セカンドスクリーンなどの多様化したコミュニケーションツールへと変化していく中、コンテンツベンダーは、それぞれのコミュニケーションツールを駆使し、ユーザ満足度を高める施策を考えていかなければいけません。そこには、ネットだろうがテレビだろうが関係ありません。同じユーザの可処分時間を奪う1つの競合であると同時に、時にユーザの体験を向上させるパートナーであるのかもしれないのです。

テレビは今、ものすごく変化が問われていると同時に、この変化が成功した先には、新しい「テレビ局」というコンテンツベンダーとしての形があるのかもしれません。こうなった時に、ネットのコンテンツベンダーはどのようにしていくべきか。ネット業界の方々は、正直言えばあまりテレビを見てるとは言えません。もちろん、テレビについての研究をしているとは言えないでしょう。しかし、テレビの側は今や急速にネットの最新の情報などをもとに研究し、成長を図ろうとしています。コンテンツのクオリティやユーザとのコミュニティがテレビという場で出来た時、ネットの人たちが生きていく道があるのか、と少し考えてしまいます。ネット隆盛と言われていますが、気づいたら後ろには、大きな巨人であるテレビは、ネットを食わんと準備を進めており、気づいたらネットを抜き去る、という状況が生まれるかもしれないのですから。

そんなことを考えさせられる、大変刺激的なイベントでした。











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